十二支の設備は殆どが新しいのだが
この第一体育館だけは何故か異常に古い。
学内の角にあって用がなければ誰も来ない上、
幽霊でも出そうな雰囲気が昼間でもある。
・・のに今は夜、おおよそ9時前後。
外は垂直に落ちるひどい雨が降っていて、
体育館の周りにある渡り廊下の鉄屋根に当たってひどい音がしている。
「・・やっぱり何も出来ないよね。まさか窓割るわけにもいかないし」
「不覚也、誰が確認もせず鍵など・・」
遡ること約1時間、この体育館は野球部で使っていた。
雨だが自主練習にはせず体育館での屋内練習に切り替えたからだ。
それが一通り終わって片付けに奥にある倉庫で作業をし、・・・それから。
気付いたら閉じ込められていたのである。
電気スイッチも外、鍵も外鍵。
窓は内鍵だが開けても鉄格子があって出られないし、
例えば声だけ通すとしてもこの時間帯では傍を通る人影はまずない。
体育館の外鍵は倉庫に入る前までは牛尾が手にしていた。
それを一旦自分の道具の所に一緒に置き・・。
「やっぱりダメだね。誰が鍵を締めたのか分からないな」
「・・今更問題でもあるまい。しかしどうするのだ、
特に主の家の者は血眼に捜し始めるのではないか?」
大袈裟に捜索願など出されては堪らない。
「うん。でもどうにも連絡できないからね。携帯も部室だから・・」
さっきから出るだの出れないだののそればかりだが、
少しも解決の様は見えてこなかった。
そうしている間にますます時間が経ってしまっていた。
当然近くを通る人の気配すらない。
しんとして、かつ真っ暗な体育館で突っ立って居ても仕方が無いので、
蛇神は牛尾を連れて体育館の端まで歩いて行った。
「如何にしようもないならば時が過ぎるを待つしかない。
朝になればどうにでもなろう」
言いながら蛇神は壁を背に禅を組みその場に落ち着いてしまった。
「え!!こっ・・こんな所に朝まで居るのかい?」
蛇神の提案を受理しがたい恐怖が牛尾を襲った。
ただでさえ夜の学校は恐い。
教室でも勘弁願いたいのに、学校の端にある古い体育館(真っ暗)だなんて
我慢できるか自信が無い。
「我もどのみち出れぬのだし、二人ならばまだ怖くもなかろう」
「それはそうかも知れないけど・・」
『出来れば避けたい』と牛尾の顔には表れていた。
避けれないから仕方がないのだが、
自分から体育館に閉じこもったわけではないし納得出来ない部分もある。
「落ち着けば怖くも無い也」
「・・・・」
そのままいくらか時間が過ぎた。
相変わらず雨は土砂降りで、人の来る気配も無い。
やや目は慣れたものの、辺りは真っ暗で
お互いの輪郭がうっすらと見える程度だった。
蛇神は牛尾を寄り添わせたままいつもの通り目を閉じている。
牛尾は蛇神に寄り添ったまま眉間にシワを寄せていた。
怖いのもあるが、とりあえず寒いのである。
空から落ちてくる雨はどんどん熱を奪っていく。
それに伴い牛尾が蛇神に触れる面積が広くなった。
「・・冷えるのか」
右半身は蛇神にくっつけているが、逆に反対がもっと寒く感じる。
「・・・寒い」
「来るか」
蛇神は言うとほぼ同時に、右手で牛尾の左手首を掴み軽く引っ張った。
特に力も入れてなかったためスルリと蛇神の懐に落ち着いてしまう。
「・・冷たい也、もう少し早くに申せば良いものを」
牛尾の指先や腕、果ては衣類で隠れている背中にすら殆ど体温は残っていなかった。
「・・あったかい」
蛇神が抱え触れる場所から徐々に体温が伝わってくる。
蛇神の目下には牛尾の頭と少しの顔が見えた。
「主と触れるのは幸也」
「・・非常時に君は何をまた・・」
牛尾は冷めたような照れたような顔で違う方を向いた。
「急いたところで如何にもならぬ。もう明日になるかならぬか、その辺りであろう。
尚更助けなど期待できまい」
蛇神はそれに構わず囲む手を強める。
「・・それは、その」
牛尾に明らかに動揺が見て取れた。
蛇神は掌を牛尾の顎へかけるとそのまま引き上げて上を向かせた。
「・・・ぅん?」
隙間は僅かに数センチ。
誰だって照れる距離だろう。
その隙間はすぐに無くなる。
「・・・っ」
「真、冷たい也」
「・・・・いきなり」
「たまには主からしてはくれぬのか」
「はっ・・話を進めないでくれたまえ///大体そんなことしてる場合じゃ・・」
蛇神は牛尾の顎に当てていた手を離すと、今度は胴を抱え込み強く引き寄せる。
「ゃ・・や」
目の前に来た牛尾の首筋に歯を立て、やや食らいつく様に唇を寄せる。
朱く痕が付いたのか付いていないのか、
暗がり過ぎて良く見えないが、モノクロに微妙な色差が付いたようでもある。
怖いのと暖かいのと刺激と暗がりと。
蛇神の匂いと。
自分の欲と。
抑え込もうにも何だかいろいろな感覚が外から、外から、流れ込んで混乱してくる。
「・・・・っ」
首を開放され、自由になった牛尾は
自分から蛇神にキスをしていた。
蛇神は少し目を見開いたがすぐに視線を尖らせ、
口を割り舌を絡めとると深くに侵食していく。
「・・は・・っ・・・・は」
「ふむ・・、中々。先程までどうのと申しておったが」
「・・もう、何か、わからないんだ。ドキドキするし・・マタタビだよ、君は」
「木天蓼?」
牛尾の横腹や背中にシャツの下から手を差し延べると、
少しだけ身体に反応があったため、蛇神は指をさらに遊ばせた。
「〜・・・//こうやって君に少し触られただけで・・熱い・・から」
「成る程、それで木天蓼」
蛇神は、面白い事をと思いながらも、
それならばそちらも自分にとって充分に木天蓼であると思った。
「・・・恥ずかしい事は言わせないでくれたまえ。解ってるんだろう?」
もう既に牛尾は蛇神の顔を直視出来ないでいた。
「解らぬでも無いがな、それでも言わせてみたいのは常也。
主も男ならば解るであろう?」
「い・・言わされてるのは僕なのに・・」
解る解らぬの押し問答が自分に戻って来た牛尾は思わず返答に詰まった。
「恥じらうか、それも面白い也」
蛇神が普段は黙しているのにこんな時は饒舌なのは、
照れて何かネジが飛んでるんだろうか、なんて。
「ねぇ・・話、聞いてる?」
「・・聞いておらぬ」
「聞いてるじゃないか」
「・・腰を折るな、黙る也」
蛇神の低い響きに牛尾はそのまま身体を預ける。
甘くて怖くて響く音。
「・・うん」
暗闇のなか、曇った牛尾の声だけが響く。
静まり返った体育館は音が反響し、余計に羞恥を煽った。
蛇神を受け入れている箇所は段々に刺激を増し、
牛尾は我慢が出来なくなりつつあった。
しかし蛇神は少しも動かずに首や肩に印しを付けている。
『・・尊は・・辛く・・ないのかな』
牛尾は白くなりつつある頭でそう思う。
蛇神とは向かい合わせの恰好で牛尾が上になっている。
蛇神がそうしたのだが、意外に通常に近い体勢というのは恥ずかしい。
身体に印しが付く度に、牛尾は小さく痙攣し、
内の蛇神を緩く絞ってしまう。
「・・ん、ぅ・・みこ・・」
「御門」
じっとしている分、多少の声の振動も響く。
「・・あぁ・・っ」
「主に、動いて欲しい也」
「・・・・ぇ?」
牛尾の顔がもっと朱くなる。
「否、この状態でどう動けと」
本当は手が空いているが、そこには触れずに牛尾の反応を見る。
「・・・・・・」
大体の場合蛇神が主導権を持っている為、
牛尾はされるがままなのである。
「・・どうしても・・僕・・?」
「体勢がこのままであれば・・とは言えこのような床には主を寝かせたくはないのでな」
「も・・だって、・・はずかしい・・」
いつもの様に蛇神が覆い被さってくれた方が気持ち的には幾分かマシだ。
その時は本当に世界が蛇神だけになって、他の事を思う隙も無いから。
今はそれ以外の背景が見えてしまい、どうしても羞恥が消えていかなかった。
蛇神の要求に応えたいのに応えるほんの少しのきっかけがなく、牛尾は段々目が潤んでくる。
「・・このままでは互いに辛いか。致仕方あるまい・・」
言うとほぼ同時に蛇神は牛尾の腰を掴みそのまま上下に揺らし始めた。
「ん、やぁ・・っ、あ・・やめっ・・」
牛尾の中の何かの糸がぷつりと音をたてて切れ、
縋るものを求め蛇神の肩に手を延ばす。
それが叶う体位の時には決まってする牛尾の癖で、蛇神は大体それに応える。
それによってもっと牛尾に近づいて気分を高揚させる為に。
「みかど、もう・・少し、・・っ」
徐々にではあるが自分から牛尾が動き出し、蛇神も息を詰まらせる。
「ん、ぅ・・も、だめ、・・みこと・・っ」
蛇神の肩にあった手を、頭に廻して引き寄せた。
蛇神の髪が顔に触り、その瞬間牛尾の背中に強い刺激が走る。
「・・・・・ああっ!」
く二人で息を止めた。
呼吸が落ち着いてくると蛇神は崩れてしまった牛尾を起こし、彼から離れる。
でもまた直ぐに抱えなおして牛尾の様子を窺った。
牛尾は余韻に浸るような、でも疲れたような顔をしている。
最低限しか互いに脱がなかったつもりだが、
それでも牛尾は何も着ていないのに近い。
蛇神は傍に脱ぎ捨てていた自分のシャツを牛尾の肩にかけてやった。
「・・どうしよう、汚して・・しまったね」
二人とも欲望を掃き出したはいいが、
そんな時というのは後の事なんて考えているはずも無い。
「・・・適当に片付けるしかあるまい」
ふと牛尾がはだけている蛇神の腹に目をやると、
そこには自分の放ったものがあり、瞬く間に顔が染まる。
「・・、ごめん、尊まで・・」
「否、主の方が」
「///・・・・・」
身体の奥で熱を感じたのだ。それが無い訳がない。
「・・・・尊のばか」
「御門坊ちゃま、よくご無事で!!」
「あ・・ありがとう、心配をかけたね」
朝5時。
少し前から二人を捜索していたらしいニルギリ達が体育館の外鍵を開けた。
「私どもはてっきり、坊ちゃまは蛇神様のお宅へ行かれているのだとばかり・・」
「・・?」
「しかしながらお電話を差し上げても全然お出になられませんので、
真夜中失礼を承知の上、蛇神様のお宅へ連絡させて頂いたのでございます」
「・・・何時頃?」
「・・午前3時でごさいます」
「その時間はやっぱり失礼だよ、じい。
確かに連絡出来なかった僕が悪いけれどね」
「問題なかろう、出たのが父上であれば既に起きられていたはず也。
連絡せず帰らなかったという意味では、流石に叱責を受けるであろうが・・」
「それで蛇神様もお帰りでは無いとおっしゃられましたので」
「そうだったんだね・・」
ニルギリはそういえば、という顔で牛尾を見上げる。
「坊ちゃま、それで鍵を閉めた人物なんですが」
牛尾と蛇神は顔を見合わせ、次にニルギリの方を向いた。
「どうやら羊谷監督のようです」
「!な、何で監督が」
「・・我らが居るのを知っている上で?」
「それは何とも。
しかし昨日の外鍵を閉めたとは先程のお電話でおっしゃいましたので」
「・・とんだ悪戯であった也」
その日のお昼休み。
二人はその後、一旦帰ってまた登校してきている。
本当に羊谷が閉めたのか、と本人に聞きに行けば、
嫌な笑みを浮かべて「そうだ」と一言言われただけだった。
「そうだね、まさか監督だなんて」
「・・・主と居れたのは幸であったが」
「!!ま、またそんなこと・・」
蛇神は少し微笑んだが直ぐにまた普段の表情に戻る。
「と、とにかくもう学校では止めて・・ね」
牛尾が小さく、しかし懇願し蛇神に言った。
だが当の蛇神はさらっとそれを受け流す。
「ならば我を煽らぬことだ。修行も足りぬ、理性の糸は割に短いのでな」
「・・・も、もう・・知らないっ//」
end
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裏SSは久しぶりの更新になりました。
いつか書いてやろうと思っていた体育館ネタ・・・しかし
色々と書いているうちに矛盾点が出てきてさっぱり進みませんでした・・。
結構密室かと思いきや、そうでもないようで・・ムリヤリです(笑)。
しかしながら、裏SSを書くたびに蛇がムッツリになっていっているような。
・・・・・・・・でも蛇が言葉攻めとか有り得ない・・。
イチバン難しいのはそこか・・。
読んでくださった方にはお礼申し上げます!
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